『傘』

夜の傘

想い出も一緒に埋め立てられた海岸線
立ち並ぶビルが好きだった空も消した

ビルの隙間から届く夕陽は この世界の絶望を掻き分けて
空っぽの僕に差し伸べた手 無情にも夕立が夕陽を遮断した

落ちていたビニール傘を片手に「雨は嫌いだな」
つぶやく声は雨音に掻き消された

世界のどこかで泣いている 心を空に映して泣いている
涙のようで好きになれない 雨が沁みる場所は心の傷跡

夕立に差すビニール傘 暗雲から夕焼けが顔を出す
映した傘は夕焼け模様 夕焼けと僕の距離は隣に

幼い日の延長線が伸びた影みたいで
伸びた影は陽が沈むと同時に夜になった

夜になれば心も夜に染まる 傷つけているのは過去の苦悩
胸に刺さった杭を抜いた その傷口に夜雨が流れ込む

穴の空いたビニール傘を片手に「雨は嫌いだな」
つぶやく声は雨音に掻き消された

僕の心は夕焼けから見たら 僕の心は夜空から見たら
傘にどう映っているのかな 雨が沁みる場所は心の傷跡

夜雨に差すビニール傘 暗雲から夜空が顔を出す
映した傘は夜空模様 夜空と僕の距離は隣に

穴が空いている虫食いの心
満月のように其処ら中に

暗雲から満月が顔を出す 満月の光が射す先は「現実」
空っぽの僕に差し伸べた手 映した傘は満月模様

世界と僕の距離が隣に 誰かの心が僕の隣に

今日も誰かが泣いている 映した傘は涙模様
昨日拾ったビニール傘を片手に「雨は嫌いじゃないな」
つぶやく声は雨音に掻き消された